大判例

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高松高等裁判所 昭和23年(ネ)82号 判決

德島県名東郡国府町

控訴人

山上銀二郞

同県同郡同町

吉田侶章

右両人訴訟代理人

弁護士

中内二郞

同県同郡同町

被控訴人

国府町

右代表者

国府町長 川野正一

右当事者間の昭和二十三年(ネ)第八十二号行政処分変更請求控訴事件について当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人等代理人は「(一)原判決を取消す(二)被控訴人は町民手川国正に対し昭和二十二年度県民税町民税として県民税金五百七十二円町民税金三百五十円を賦課徴收せよ(三)被控訴人が町民に対し昭和二十三年度地租附加税家屋税附加税を各本税の百分の百として賦課したる処分は之を取消す。右(二)の理由ないときは被控訴人が町民手川国正に対し昭和二十二年度県民税町民税として県民税金百九十七円町民税金百二十円を賦課徴收したるは之を取消す」との判決を求め

被控訴人代表者は控訴棄却の判決を求めた

当事者双方の事実上の主張は

控訴人等代理人において

一  訴外手川国正に対する県民税の賦課額は昭和二十二年十二月二十九日国府町議会の議決に従えば県民税五百三十五円町民税三百五十円であるが町長において之を県民税百九十七円町民税百三十円と減額賦課したのであるがその結果他の町民の賦課金額に異動を及ぼす筋合であるが控訴人等は現実に之れが為めに増徴せられたことはない。然し乍らその更正には法上の手続を経ないで町長の独断行為であるから許されぬところである。

一  被控訴人主張のように昭和二十三年九月二十二日町議会においてその主張のとおり議案第四十号を以て地租附加税を賃貸価格一円につき一円五十銭家屋税を賃貸価格一円につき一円八十七銭五厘と訂正議決したことは認めるけれども之が為めそれ以前に町議会の議決を無視して為した不法賦課の違法性は阻却せらるるものではない。即ち被控訴人は之が戻税並に新議決に基く新な賦課を為さず今日に至るもそのまま放置してあるので違反処分は依然として是正されて居らず従て此の違法処分を取消すことは許さるべきである。

一  本訴は行政事件訴訟特例法第二條にいう訴であるから訴願のできる場合には先ずこの裁決を経た後でなければ本訴を提起することはできないのであるけれども、控訴人等は地方税法第二十一條所定の地方税の賦課を受けた者(処分の被処分者)でないから右第二條所定の訴願の裁決を経るを要しない。

一  新憲法の下における行政事件訴訟特例法による行政庁の違法処分の取消又は変更の訴訟は必ずしも形成の訴に限らるべきでなく苟くも違法処分を是正する必要に出でた請求である限り形成の訴であると給付の訴であるとを問わず権利保護要件の存する限り許されねばならない。その違法を是正するは單に違法処分の効力の全部又は一部を消滅せしむるに止まらずその変更を命ずることもあり得べきであつて勿論裁判所自ら行政処分をすることは許されないけれども違法処分を為した行政庁に特定の行政処分を命ずることは新憲法下明らかに認められているところである。即ち行政権の行使が違法である限り国民が裁判所に訴えてその救済を求めうるものと解されなければならない。本件の如き町議会の決議を無視し議決を経べきものを経ずして独断專行するが如きは許すべからざる違法の行政処分であると述べ

被控訴代理人において

一  控訴人等が国府町の住民であり且つ同町町議会の議員であること昭和二十二年十二月二十九日町議会の議決を経て訴外手川国正に対し賦課令書を発しその後控訴人主張のように減額訂正して賦課したことはいずれも争わない。

一  昭和二十三年八月十六日町議会に於て議案第三十五号を以て控訴人主張のように改正條例を附議決定したことは相違ないがその本税ということは「賃貸価格」とすべきところを書損じていたので直ちに助役から正誤表を附して各議員に配付しその後同年九月二十二日の町議会に於てこの点を附議し條例の改正並に課税の訂正につき承認の議決を経たものである。而も徴税額には全然異動を及ぼしていない。

一  控訴人等は訴外手川国正の申出により為した町長の訂正賦課が違法であると主張しているのであるけれども納税者の異議申立は町長に対し為され町長に於てその決定を為すべきは地方税法の明定するところであつて本件手川の申出も実質上異議の申立であり且つその賦課の誤謬を認めて之を訂正したものであるから町長の專権に属する事項を処理したに過ぎないと述べた外、原判決摘示事実と同一であるから茲に引用する。

証拠として控訴人等代理人は甲第一、二号証を提出し被控訴人代表者は右各号証の成立を認めた。

理由

裁判所が日本国憲法に特別の定ある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判するの権限を有することは裁判所法第三條の明定するところであるから行政庁の違法処分の取消又は変更の裁判をすることができることは勿論であるけれども、かような裁判を求める訴訟はいわゆる形成の訴であり、従つて請求認容の判決は常に形成判決であつて形成判決のうちでも積極的に自ら或る行政処分をしたのと同様の効果を生ずる判決をすることはできないものであり又相手方である行政庁に対して特定の行為或は不作為を求める給付判決の如きは法律に特定の規定(例えば地方自治法第二百四十三條の二)ある場合を除きこれを許さないものと解すべきである。けだし裁判所は專ら判決によつて違法処分の効力を全部又は一部消滅せしめることによつてこれを匡正することを使命とし行政庁にかわつて自ら特定の処分を為し又はこれに特定の処分を為すべきことを命じ或は不作為を求めるが如きは裁判所の権限に属しないところと云うべきであるからである。故に控訴人らの本訴請求中町民手川国正に対し昭和二十二年度県民税金五百七十二円同町民税金三百五十円を賦課徴收すべきことを被控訴人に求める部分は理由のないこと明らかである。

次に被控訴人が町民手川国正に対し昭和二十二年度県民税、町民税として県民税金百九十七円、町民税金百二十円を賦課徴收した処分の取消並びに町民に対し昭和二十三年度地租附加税、家屋税附加税を各本税の百分の百として、賦課した処分の取消を求める各請求につき検討せんに、被控訴人は本訴は行政事件訴訟特例法第二條地方税法第二十一條によりその提起に先だち県民税については県知事に異議を申立て町民税については町長に異議を申立て或は県知事に訴願することを要するのにこれらの異議又は訴願を経由しないから不適法として却下さるべきであると主張するけれども、地方税法第二十一條には「府県税、市町村税の賦課を受けた者は云々異議の申立をすることができる一と規定せられあり、また昭和二十二年度の地方税については地方税法(昭和二十三年七月七日法律第百十号)附則第百四十二條により改正前の地方税法によるべきであるが改正前の地方税法第二十條にも右と同趣旨の規定があり、さらに訴願法第一條には租税の賦課に関する事件については訴願を提起することを得る旨規定せられて居るけれども、これまた同法第八條の法意に徴するときは矢張り行政処分を受けた者に関する規定であると解すべきである。然るに控訴人らは何等税の賦課処分を受けた者でないことその主張自体によつて明らかであるから右異議訴願に関する規定の適用を受けることなく、従つて異議の申立や訴願の手続を経ることなく直ちに裁判所に訴を提起しても不適法であると言うことはできない。

併し控訴人らの本訴は左記理由により失当である。

(一)  被控訴人(被告)は被告たる適格を欠く

違法な行政処分の取消又は変更を求める訴はその処分をした行政庁を被告としなければならないことは行政事件訴訟特例法に明言するところである(同法第三條)。然るに地方自治法第百四十九條第六号によれば地方税の賦課徴收はこれを普通地方公共団体の長の担任事務に属せしめておりこの規定やその他府県税、市町村税の賦課を受けた者の異議申立に関する前掲地方税法第二十一條(改正前の同法第二十條)地方税の減免に関する同法第二十九條(改正前の同法第二十八條)の規定に徴するときは本件県民税並びに町民税の減額徴收処分をしたり或は県税附加税たる地租附加税、家屋税附加税の賦課処分をした行政庁は国府町長であるといわなければならない。故に本訴の正当な被告は国府町長であつて(県民税については正当な被告は府県知事であると解すべきではなかろうか)国府町ではないと言うべきである。

(二)  控訴人(原告)らは本件判決を受くべき法律上の利益を有しない。

違法な行政処分の取消又は変更を求める訴を提起するには必ずしも当該行政処分の相手方であることを必要としないけれどもその処分の取消又は変更を求めるについて具体的の利益を有する者でなければならない。然るに控訴人らはその主張の各税金の賦課処分を受けた者でもなく、また町民手川国正に対する県民税、町民税の賦課額が減額された為め控訴人らに対してこれらの税金が増額賦課されるに至つたというのでもなくその他本訴を提起するについて何らかの具体的な利益を有する点については何ら事実上の主張がないから控訴人(原告)らは本件行政処分の取消を求める法律上の利益がないものといわなければならない。

尤も地方自治法第二百四十三條の二には普通地方公共団体の住民が当該公共団体の長、その他の職員において公金の違法若しくは不当な支出処分等があると認める時には監査委員に対しその監査を請求し該監査の結果等に不服ある者はさらに裁判所に出訴し得る旨の規定がありまた控訴人らも行政訴訟は個人の権利保護のみを目的とするのではなく行政法規の違法な適用を是正する等公共の利益の為め何人でも訴を提起し得る旨主張し所論引用の衆議院、参議院各議員の選挙法並びに地方自治法にはその趣旨を含む規定があるけれどもこれらは一般民衆が何人でも正当な利害感を抱くものと認められる民衆的な公共の利益に関する事件であるから右のような特別の規定があるのでかかる訴訟については控訴人ら主張のとおりであるけれども、それは法律に特別の規定がある場合にのみ許さるべきものであつて本件におけるが如き違法処分の取消又は変更を求める訴訟の場合には同様に律することはできない。

以上説明するところにより控訴人らの本訴請求は失当であるから爾余の点の判断をまつまでもなく棄却せざるを得ない。

仍て原判決を相当とし民事訴訟法第三百八十四條第九十五條第八十九條を適用し主文のとおり判決する。

(裁判長判事 前田寛 判事 萩原敏一 判事 吉村弘義)

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